TV録画、リッピングデータ、動画や写真の保存、etc…でどんどん消費されていくHDD。家庭用の大容量HDDの運用はかれこれ10年以上になりますが、その過程で蓄積された経験をもとに大容量NASについて考察します。
まずは、家庭用NASで保存するデータについてまとめます。銀行の契約書類や、履歴書のひな形等、無くすと面倒な物から、TVの録画データ等の無くしても諦めの付くデータまで各種あると思います。それらを大雑把に区分けし、『どんなデータを保存する必要があるのか』を書き出します。
保存データとその運用重要度。まずは敵、、、ではなくて保存対象を知る必要があります。 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
保存データ | 重要度 | 紛失リスク | 機密性 | 容量 | ロスト時の復旧手段/コスト | コメント |
重要書類 | A | A | A | ~10G | 無し/印刷物から再取り込み | 報告書や仕事上の書類、契約書の控え等。wordやexcel、PDFデータが主 |
一般書類 | B | A | A | ~10G | 無し/印刷物から再取り込み | 名刺のスキャンデータ、年賀状データ。wordやexcel、PDFデータが主 |
ソフトウェア製品 | A | B | B | ~100G | 再購入/最新バージョン購入 | OSやオフィスソフト、購入したアプリ |
PCのバックアップデータ | B | B | A | ~300G | 現行PCから再度バックアップ。 | ブックマークやメールデータ、メモ書き等。古いデータで使っていない物は諦める勇気が必要。 |
携帯端末のバックアップデータ | A | B | A | ~30G | 携帯端末から再取り込み | 携帯、バックアップ共に一度に壊れるケースは稀なので、重要度は高いが、リスクは低い。 |
思い出の写真、動画、音声 | A | A | B | ~1T | プライスレス | 旅行中に取った記念写真や、動画、音声等。最近の物であればデジカメや携帯に入っているかもしれないが、古いデータは復旧が困難。 |
TV録画データ(永久保存) | B~A | A | C | 1T~100T | 再放送やDVD、Blue-rayの購入で復旧。アナログ時代と比べてダビング10のせいで『HDDが飛んだから譲って』と頼みにくいのが難点。オリンピックやサッカー試合等、再放送が望めない物がある。 | いっそのこと、DVDやBlue-rayに焼き付けるのも手だが、うちでは10年前に購入した国産の2倍速DVD-Rに焼き付けたデータの半分が読み込み不可能になっています。どうしても残したい場合には、冷暗所に保存するのは言うまでもなく、5年スパン程度で再バックアップを取る必要あり |
TV録画データ(一般) | C~B | A | C | 1T~100T | 再放送。BSやCS、ケーブルTVは古い番組の再放送が多い | ドラマやアニメ、映画等 |
紛失リスクはNAS上のデータを無くした場合に代替があるか。機密性はオンラインストレージでのバックアップを考えた際に、オンラインストレージ側の不備で第三者に公開されるようなケースの許容範囲度。TV録画データが第三者にオンラインストレージ側の不備で漏れたとしても、それは違法公開ではなく、オンラインストレージ側の不備なので、罰せられることは無いだろうとの判断も含まれています。
一般的には、3TB程度を見積もっておけば良い場合が多いのではないでしょうか。ちなみにうちは・・・・30TB以上必要です。
次にデータ保存の冗長性について考察します。
ここでは、一般的に論じられているRAID1やRAID5/6の比較の枠を超えて、NAS間、拠点間にも焦点を当てます。『保存データとその運用重要度』でまとめたデータの保存方法を決めます。
保存時の冗長性 | ||||
---|---|---|---|---|
冗長化の方法 | 安全性 | コスト | リスク | コメント |
情勢性無し | – | 無 | HDDが死んだら終わり。 | HDDが1台のみのNASを使っているケースです。自PC等に同じデータを保存していれば多少は安心できますが、自PCにそれだけの容量があるでしょうか? |
外付HDDへのバックアップ | AA | 低 | NASが死んだ場合に、前回バックアップ時点のデータに戻る。つまり、最新データは戻ってこない。 | 一つの妥協点。NASの中身を定期的にUSB接続のHDDにバックアップし、普段は電源も抜いて保存しておく。落雷による被害等も免れる事が可能。NASの運用に組み合わせても良い。※電源を抜かず、NASの機能で1日に1回バックアップ(sync等のツールで同期)する手もある。お勧め!! |
NASのRAID1機能 | A | 中 | HDDが2台同時死亡/NAS自体の故障/ヒューマンミスでの削除 | ミラーリングとも呼ばれます。HDD2台に対して同時書き込みをする為、1台のHDDが死んでも大丈夫 |
NASのRAID5機能 | A | 中 | HDDが2台同時死亡/NAS自体の故障/ヒューマンミスでの削除 | 3台以上のHDDでRAID5を構成しうち1台をパリティ分の容量とする方式。例えば3TBのHDD3台だと6TBが利用可能。3TBが5台なら12TBが利用可能。1台壊れたら、2台目が壊れないうちに、HDDを交換してRAIDの復旧を行う必要あり |
NASのRAID6機能 | AB | 中高 | HDDが3台同時死亡/NAS自体の故障/ヒューマンミスでの削除 | 4台以上のHDDでRAID5を構成しうち2台をパリティ分の容量とする方式。例えば3TBのHDD4台だと6TBが利用可能。3TBが6台なら12TBが利用可能。RAID5のパリティが1台多いバージョン。HDD台数が5台以上の場合にはRAID6が吉。2台までは壊れてもデータを失わない。 |
NAS間のミラーリング | AA | 高 | NASの同時故障 | NAS間のミラーリング機能を利用します。NASにミラーリング機能が無い場合には、お使いのPCから2台のNAS間の同期うようなソフトを利用します(RealSyncがお勧め) |
個人DR(ディザスタリカバリ) | AAA | 最高 | 2拠点の同時被災 | 名称が大げさですね。その方が伝わりやすいと言う事もあって単語をチョイス。友人宅や実家等にNASを配備し、その間をVPNでつなげ、NAS間のミラーリングを行います。一番コストがかかります。実際にやっていますが、2拠点で大容量のNASを用意するのは厳しいので、片方はRAID1のNASとし、重要データのみミラーリングする方式が良い |
オンラインストレージとのミラーリング | AA | 中 | オンラインストレージのサービス停止やクラック、パスワード漏洩等 | 上記個人DRを、オンラインストレージを相手にするケース。オンラインストレージ側の不備で第三者に公開されるようなケースの許容範囲度を考慮しつつバックアップデータを選定。基本的には間違って第三者に漏れても良いデータとするか、機密性の高いデータは暗号化した上でアップロードする事になる。 |
必要な容量と、冗長性について記載したため、ここからは実際に製品を選ぶ際の基準を書きます。NASを導入する際の判断基準は大まかに下記の通り。他にも良い観点があればコメント欄から教えてください。
NASの基準 | |||
---|---|---|---|
項目 | コメント | ||
価格 | そのデータを守る為に幾らかける事が出来るか。言い直すなら、『万が一、失ってしまった場合、データを取り戻すのに幾ら払えますか?』へ幾らと答えられるか次第。場合によってはNASは不要でUSBメモリでバックアップすれば良い。と落ち着くこともある。 | ||
冗長性 | HDDが1台壊れても大丈夫かどうか?『保存時の冗長性』に記載したとおり構成によっては2台や、NASが1台丸ごと壊れても大丈夫な組み合わせあり。 | ||
バックアップ | 『保存時の冗長性』に記載したとおり、NAS<>NAS間やNAS<>USBHDD間のバックアップ方式等がある。構成によってはNASを2台同時購入等が有りえる | ||
容量 | 一般的には2TB~4TBのRAID1で良いと思われます。TV録画やマルチメディアが絡むなら、ホットな時期は常時稼働のRAID1にデータを置いておき、時期が過ぎたら、それらを保存用NASに移していくのがコストパフォーマンスが高いと思われます。
それと、NAS購入時に頑張ってHDDが8~24台入るケースを買い求めるケースがありますが、今までそれをやってきた経験から言うと、1台のPCにFreeNASを入れ、4台~6台のHDDでRAID5/6を組んで、容量が足りなくなるごとにFreeNAS導入サーバを買い足して行くのがお手軽で楽。個人でSUPERMICROとARECAのRAIDカードで運用していた時期は正直騒音も電気代もハードウェア代金もばかにならなかった。HDD8台でRAID6を組んでいると、スピンアップするだけで1分近くかかりましたし。何よりも、HDDの世代交代時に同スペックのハードウェアを用意するのが厳しい。 どうしても1台のサーバにHDDを大量搭載したい場合には、NorcoのRPC-4224やSupermicroの6047R-E1R24N等を検討してください。 |
||
マルチメディア | DLNA対応やAppleTV、各種携帯端末との連携等です。chromecastと組み合わせられるNASも出てくるんでしょうね。 | ||
セキュリティ | アンチウイルスソフトが組み込まれている製品もあります。普段使いのPCからネットワークマウントして、定期的にウイルススキャンするのも有り。 | ||
外部公開 | やってはダメ。設定ミスやセキュリティホールで全公開なんて事になったら目も当てられません。外出先からアクセスしたい場合にはVPN、L2TP(またはPPTP)対応のルータを用意して、VPN経由でNASにアクセスする事。迷ったらYamahaの家庭向けルータを買っておけばOK。値段以上の価値がある。 |
NASメーカー/自作(FreeNAS/Nas4Free)の選択肢
大雑把なNASの選択肢としてはそこまで多くはならないはずです。
NASの選択肢 | |||
---|---|---|---|
メーカー | コスト | お勧めの対象ユーザー | コメント |
Buffalo | 1万中盤~ | トラブル時にメーカーサポートを望む人 | Buffaloは一番売れているようなので、ネット上でデータロストした人のクレームが一番見つけやすいメーカーだが、20人前後の会社で使っているのを良く見るNASでもある。基本的に企業ユースの場合には2台購入してミラーリング出来るので、2台購入して使われている。その実績から、個人で購入する事になんら問題は無いと考えます。 |
QNAP | 2万~ | マニュアルを見て運用できる人 | 一番のおすすめ。NAS本体のみでHDD無しでの販売が一般的なので、HDDは別途購入する必要あり。DLNAやウェブサーバ、DB、各種バックアップ等、これでもかと言うくらい各種機能が詰まっているが、その分初期設定の作業量は多め。少なくともマニュアルを読んで何とかできる自信が無ければ買うべきではありません。防犯カメラ用途でも利用可能(1台目は追加ライセンス不要。2台目以降追加ライセンス必須)。ネットワークカメラ用のネットワークビデオレコーダーはQNAPがOEM元に使われている実績あり。メーカー製NASでド安定といったらQNAP。 |
NetGrar | 2万~ | マニュアルを見て運用できる人 | HDD無しで売られている事が大半。企業向けも出しているメーカーなので信頼性は高いはず(企業向けのNAS、パッと見、ケースはSupermicro製に見えるが)。サポートを受けるために、購入した後はユーザー登録を忘れずに。 |
IO DATA | 1万中盤~ | トラブル時にメーカーサポートを望む人 | Buffaloか、IO DATAかで悩むところ。広告の仕方が悪いのか、あまり持っている人を見ない。以前修理を頼まれたことがあり、その時の感想から、可もなく不可もなく無難と言うイメージ。 |
FreeNAS | 1万中盤~ | 中級~上級者向け | オープンソースのFreeNASをUSBメモリにインストールする事でPCをNAS化出来るソフトウェア(構築事例)。メリットは4台以上のHDDを搭載する高機能なNASを安価に作れることとファイルシステムに堅牢性の高いZFSを使える事。トラぶった場合には、こちらにコメントとして投稿すればある程度の事は助言してもらえる可能性有。HP ProLiant MicroServer N54L等と組み合わせるとリーズナブルに構築可能。 |
NAS4Free | 1万中盤~ | 中級~上級者向け | FreeNASの派生(構築事例)。メリット、デメリット共にFreeNAS同様。GUIが少し古めかしい分解り易い。 |
ASUSTOR | 1万中盤~ | 初級~中級者向け | ASUSのNASブランド。HDMI端子がある機種もあり、防犯カメラ用途で利用可能。 |
購入するHDDについて
NAS購入時にHDDが最初から内蔵されている場合には、考慮する必要はありませんが、QNAPやNetGear、FreeNAS等を利用する場合には、購入するHDDを吟味する必要があります。参考リンクを載せておくので、吟味してから購入してください。お勧めはHitachi製品。
- ハードディスクはどこのメーカー製が一番壊れにくいのかが2万5000台の調査結果でついに明らかに
- Googleによると、ハードディスクは温度や使用頻度に関係なく故障する
- WD製HDD Caviar Green 低速病発生原因?
- Seagate製ハードディスクのファームウェアに致命的な不具合、起動不能・アクセス不能になることが判明
NAS導入事例 | ||||
---|---|---|---|---|
構成 | 容量(RAID構成時) | リンク | 予算 | コメント |
QNAP RAID5 | 12TB | QNAP TurboNAS TS-421 | 6万+HDD代 | HDDはHitachi 4TBと組み合わせると良い。高品質・高性能・コストパフォーマンスが揃っている為お勧め。 |
Buffalo(RAID1) SOHOモデル | 1TB | LS-WXB2.0TL/R1J | 3万 | マルチメディア機能が不要でデータの保存重視ならこれ。 |
Buffalo(RAID1) | 2TB | LS420D0402 | 3万2千 | ギガビットの帯域をフル利用できるマルチメディアサーバとして |
Buffalo(RAID1) + Buffalo(RAID5) | 2TB + 12TB | LS420D0402 LS-QV16TL/R5 | 20万 | ギガビットの帯域をフル利用できるマルチメディアサーバとして。RAID1とRAID5のNAS同士で重要度の高いファイルをミラーリングしておけば、データを高確率で守れる。ただし高い。 |
Buffalo(RAID1) + FreeNAS(RAID5) | 2TB + 12TB | LS420D0402 FreeNAS | 3万+6万~10万 | 常時稼働のRAID1サーバは市販品を利用。RAID1側に最近のTV番組や書類等を格納。利用頻度が落ちたデータをFreeNASに移動させる。FreeNASはWakeOnLAN対応のMBで構築すれば、必要な時だけ電源を入れる事が出来て環境とお財布に優しい。RAID1とFreeNAS間で、一部重要ファイルを同期されておけば、重要データも守れます。 |
Buffalo(RAID1) + FreeNAS(RAID5) + VPN | 2TB + 12TB | LS420D0402 FreeNAS RTX810 | 3万+6万~10万+4万5千 | 上記の構成にVPNルータを付与した構成。外出先やスマホからVPNでアクセスできます。PT2/PT3で録画したデータなどを載せておけば良いのではないでしょうか。それと5万円以下のVPNルータはYAMAHA一択です。悩んだらYAMAHA。業務利用されている安定性は伊達ではありません。 |
以上、NASに関する考察を載せましたがいかがでしたでしょうか。キモはサポート重視でメーカー製を選ぶか、コストパフォーマンスと性能でHDDレスのQNAPやNetgear、それとも、腕に自信があるならば自由にFreeNAS等で構築するかの判断だと思います。HDDを全部1台のサーバに載せて、HDD24台構成等は、(今まで散々やってきましたが)コストパフォーマンスが悪い事に(今さら!!!)気づきました。
最近では、データの重要度を明確にして、容量が不足する毎にNASを買い足し、使っていないデータの多いNASは電源を落しておくのが一番良い運用方法だと感じています。